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【2026年10月施行】カスハラ対策の義務化に中小企業はどう備える?|厚労省が求める通話録音と相談窓口の作り方、東京都の40万円奨励金

カスハラ対策の義務化と、従業員を守るための記録の仕組み

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が、すべての会社の義務になります。改正労働施策総合推進法による措置義務で、中小企業の猶予期間はありません。
従業員が1人でもいれば対象です。

「うちは店舗をやっていないから関係ない」と思われるかもしれませんが、厚生労働省のマニュアルは、取引先を相手にするBtoB企業も含めてすべての事業主が対象だとはっきり書いています。

そして実務でいちばんつまずくのが、就業規則やマニュアルを整えたあとの「記録」です。厚生労働省のマニュアルは、電話対応について「通話内容を録音できるようにしておく」と明記しています。
ところが、多くの中小企業で使われている従来型のビジネスフォンには、そもそも全通話を自動で録音する機能がありません。

先に結論(3行)
① 義務は5つの区分・全10項目。規模による猶予はなく、BtoB企業も対象です。
② 中心にあるのは「記録」です。録音や対応記録が残せないと、いちばん準備が遅れている「抑止のための措置」が実行できません。
③ 東京都なら定額40万円の奨励金があります。対象の取組に「録音・録画環境の整備」が明記されており、10月23日からの第2回募集で、この事業の募集は終了する予定です。
今日30分でできる確認(0円)
1. いまの電話機で、全通話が自動で録音されているかを確認する(録音機能がない・一部の機器だけ、というケースが大半です)。
2. 従業員が「理不尽な要求を受けた」と感じたとき、どこに言えばよいかが決まっているかを確認する。
3. 過去1年で、長時間の電話や執拗なクレームが何件あったかを、部署ごとに口頭で聞いてみる。

この3つが答えられない状態のまま見積りを取ると、必要のない設備まで提案されがちです。逆に、この3つが分かっていれば、必要なものは驚くほど少なくて済むこともあります。

目次

カスハラ対策の義務化とは?いつから・どの会社が対象か

根拠になるのは、2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法です。
施行日は2026年(令和8年)10月1日で、会社が具体的に何をすればよいかは、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)で示されています。

まず押さえておきたいのは、法律上の「カスハラ」は、次の3つをすべて満たすものだけを指すという点です。

カスハラの3要件 内容
① 誰の言動か 顧客、取引の相手方、施設の利用者など、事業に関係を有する者の言動であること
② どの程度か 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
③ 何が起きるか その言動により、労働者の就業環境が害されること

裏を返すと、商品やサービス、接客態度への不満を伝える通常のクレームはカスハラではありません。むしろ業務改善のきっかけになるものです。
会社がやるべきことは「クレームを受け付けない」ことではなく、「どこから先は毅然と対応するか」の線を事前に引いておくことです。

「うちは店舗じゃないから関係ない」は誤り

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」は、対象範囲についてこう書いています。

カスタマーハラスメントにおける「顧客等」とは、一般消費者に限られるものではなく、取引の相手方等を含みます。
したがって、カスタマーハラスメント対策は、一般消費者に対して商品・サービスを提供する企業(BtoC 企業)だけではなく、
法人や事業者を相手に取引を行う企業(BtoB 企業)を含め、業種・業態を問わず、すべての事業主が取り組む必要があり、
対応が不十分な場合には、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得ます。

つまり、元請けの担当者から深夜に何度も電話が来る、無理な納期を怒鳴って押し付けられる、といった取引先からの言動も対象になります。
BtoBの製造業や建設業、士業の事務所でも、この法律は他人事ではありません。

罰則はある?「直接の罰金はないが、社名が公表される」

措置義務に違反したこと自体に、懲役や罰金といった直接の罰則はありません。ただし、行政の対応は段階的に強くなります。

段階 内容 根拠
助言・指導・勧告 厚生労働大臣が、法律の施行に必要と認めるときに行う 労働施策総合推進法 第33条第1項
企業名の公表 勧告を受けた者がこれに従わなかったときに公表できる 同 第33条第2項
過料 報告をせず、または虚偽の報告をした者は20万円以下の過料 同 第41条

金額よりも重いのは、社名を公表されることと、そこから先の採用への影響です。加えて、会社には労働契約法第5条にもとづく安全配慮義務があります。
厚生労働省のマニュアルは、カスハラへの対応を怠った結果として従業員の心身に被害が生じた場合、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求等を受ける可能性があると明記しています。

ただ、現実に会社を傷めるのは行政の処分よりも、対応が積み重なった先に起きることです。理不尽な要求に一人で耐えさせ続けると、まず現場の人が辞めます。
人手が減ればさらに一人あたりの負担が増え、退職が続く形になります。カスハラ対策が人手不足対策でもあると言われるのは、この連鎖を止められるからです。

⚠️ この記事の立ち位置について
本記事は、義務化にITでどう備えるかという観点でまとめています。就業規則への反映、規程の条文、個別のケースがカスハラに当たるかどうかの判断といった法律・労務の論点は、顧問社労士または弁護士にご確認ください。

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」PDF ➡

政府広報オンライン「カスハラとは?義務化されるカスハラ対策の内容」 ➡

会社が講じる5つの措置(全10項目)は、ITから見ると3つに分かれる

指針が求める措置は、5つの区分・全10項目に整理されています。ただし、すべてにシステムが要るわけではありません。
紙とルールだけで済むもの、いま持っているツールで足りるもの、電話まわりの仕組みが要るものの3つに分けて考えると、投資の判断がはっきりします。

区分 求められること(全10項目) ITが必要か
① 方針の明確化と周知 1. 毅然と対応し労働者を保護する方針を明確化し、周知・啓発する
2. カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知する
紙・掲示で足りる
(社内ポータルがあると更新が楽)
② 相談体制の整備 3. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
4. 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
いま持っているもので足りる
(フォーム・チャットで可)
③ 事後の迅速かつ適切な対応 5. 事実関係を迅速かつ正確に確認する
6. 被害者への配慮の措置を行う
7. 再発防止に向けた措置を講ずる
記録の仕組みが必要
(録音・対応記録)
④ 抑止のための措置 8. 特に悪質なカスハラへの対処の方針を定め、周知し、その対処を行える体制を整備する 記録の仕組みが必要
(証拠がないと実行できない)
⑤ あわせて講ずべき措置 9. 相談者等のプライバシー保護の措置を講じ、周知する
10. 相談を理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知する
紙・ルールで足りる

10項目のうち、追加の費用がかかりうるのは③と④だけです。①②⑤は、すでに契約しているグループウェアの中でほぼ完結します。
ここを取り違えて最初から大きな設備投資を検討すると、必要のないお金がかかります。

その前に、自社で何が起きているかを数える

いきなり方針を書き始める前に、社内で実際に何件起きているのかを知っておくと、あとの判断がすべて楽になります。
指針も、望ましい取組としてアンケート調査や意見交換等による運用状況の把握を挙げています。

匿名のアンケートを1回配るだけで十分です。質問は4つに絞ります。

聞くこと 選択肢の例
過去1年に、理不尽な要求や暴言を受けたことがあるか ある/ない
それはどの経路だったか 電話/対面/メール・チャット/その他
そのとき誰かに相談したか 上司に相談した/誰にも言わなかった
言わなかった理由は何か(自由記述)

この調査でいちばん重い情報は、4つめの自由記述です。
「言っても仕方がないと思った」「忙しそうで言えなかった」という回答が並ぶ会社では、窓口を作るよりも先に、上司側の受け止め方を変える必要があります。

Microsoft 365 や Google Workspace を契約していれば、フォームの作成も集計も追加費用ゼロでできます。所要時間は、作成に15分、回答に1人2分程度です。

なぜ「記録」が義務の中心になるのか

一人で抱える状態から、記録が残り複数名で対応できる状態へ

③と④に共通しているのは、「あとから第三者が検証できる形で残っているか」です。厚生労働省のマニュアルは、初期対応の段階からこう求めています。

対応の過程で顧客等の言動がカスタマーハラスメントであると疑われる場合は、録音・録画・対応記録・時間の計測など、第三者が検証可能な証拠を収集します。また、悪質性が高いと疑われる場合には、単独での対応をせず複数名で対応します。

事実確認の場面でも、同じことが書かれています。周囲の従業員から話を聞くだけでなく、録音・録画などの客観的な証拠を相談者と一緒に確認することで、より正確に状況を把握できる、という立て付けです。

記録が残せないと、いちばん遅れている「抑止のための措置」が実行できない

④の「抑止のための措置」は、今回の義務化で新しく加わった考え方です。悪質な相手への対処方針を決めるだけでなく、その対処を実際に行える体制まで整えて、はじめて要件を満たします。
マニュアルが挙げている対処方針は、次のようなものです。

悪質な言動への対処方針の例 実行するために必要になるもの
犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する/警備員と連携する いつ・誰が・何を言ったかの記録
内容証明郵便等を活用した警告文を発出する 警告の根拠になる具体的な事実と日時
法令の制限内で、商品の販売・サービスの提供をしない 繰り返し行われたことを示す履歴
店舗・施設等への出入りを禁止する 同上(1回きりの言動では判断できない)
民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる 客観的な証拠(録音・録画等)

右の列を見ていただくと分かるとおり、どれも「記憶」では実行できません。「言った・言わない」になった時点で、会社は毅然とした対応に踏み切れなくなります。
方針を紙に書くことと、それを実行できる状態にしておくことは別物だということです。

誰が対応したかの記録は、従業員を守るためでもある

記録は相手を追い詰めるためのものだと受け取られがちですが、実際には自社の従業員を守るほうに効きます。
厚生労働省の調査では、過去3年間に相談があった会社のうち、カスハラに該当する事案が実際にあったと答えた割合は86.8%で、パワハラやセクハラより高い数字でした(調査対象は従業員30人以上の企業・団体)。

記録がないと、対応した本人の記憶と主観だけで判断することになります。上司が「そこまでひどくなかったのでは」と受け止めてしまえば、相談した人は二度と相談しなくなります。

電話のカスハラにどう備える?通話録音とアナウンスの実務

カスハラの典型例として指針が挙げているものの中には、「長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること」「同様の質問を執拗に繰り返すこと」が含まれています。
電話は、その場に第三者の目がなく、あとから検証もしにくい分、いちばん記録の仕組みが効く場面です。

厚生労働省のマニュアルは、電話での対応について次のように書いています。

■電話での対応
・通話内容を録音できるようにしておく。
・基本的には、第一受信者が責任を持ち、問い合わせ案件のたらい回しにしない。
・顧客等に顔を見せられない分、丁寧な言葉遣いで、相手が理解できるようにゆっくりと説明する。
・途中で電話を中断し、周囲と相談等をするときは、社内での相談内容が漏れないように必ず電話の保留機能を利用する。

従来のビジネスフォンと、クラウドPBXの全通話録音の違い

「録音できるようにしておく」と言われても、いまの電話機に録音機能があるかどうかは会社によってまちまちです。大きく3つに分かれます。

いまの電話の形 録音の実態 義務化への備えとして
従来型のビジネスフォン(主装置あり) 多くは録音機能なし。専用の録音装置を後付けする必要がある △ 装置の追加費用がかかる
録音装置を後付けした構成 録音はできるが、装置のある拠点・回線に限られることが多い △ 拠点や携帯からの通話が抜ける
クラウドPBX 全通話の自動録音が標準機能に含まれる製品が多い。スマホの内線通話も対象にできる ◎ 追加の装置なしで全通話を残せる

ここで大事なのは、「録音できる機器があるか」ではなく「全部の通話が、誰が対応しても自動で残るか」です。担当者が録音ボタンを押す運用にすると、いちばん残したい修羅場のときほど押し忘れます。

実際によくあるご相談
「録音装置は入れてあります」という会社でも、詳しく伺うと本社の代表番号だけで、支店や現場の携帯からの通話は残っていない、というケースが少なくありません。カスハラは、本社の代表番号より、現場の担当者の携帯に直接かかってくる形で起きることも多いものです。
自社の電話が「どの番号の、どの端末の通話まで残っているか」を、先に紙に書き出しておくことをおすすめします。

「この通話は録音しています」のアナウンスは流すべきか

IVR(自動音声応答)で、着信した瞬間に「品質向上のため、この通話を録音しています」と流す方法があります。
これには、抑止の効果と、正当なクレームまで萎縮させかねないという副作用の両方があります。

流す/流さないの判断 起きること 向いているケース
着信時に必ず流す 録音を前提に話す人が増え、暴言や脅しに発展しにくくなる 不特定多数からの電話を受ける代表番号・受付窓口
流さず、全通話を録音する 正当な意見は言いやすいままだが、抑止の効果は働かない 取引先との日常のやり取りが中心の直通番号
状況に応じて担当者が告げる その場で言うのは心理的な負担が大きく、実行されにくい 推奨しにくい(運用が続かない)

当社がおすすめしているのは、代表番号・問い合わせ窓口には流し、取引先との直通番号には流さない、という使い分けです。
通常のクレームは会社にとって貴重な情報なので、そこまで細らせる必要はありません。

相手の了解を得ずに録音してよいのか

自分が当事者として参加している通話を記録すること自体は、一般に問題ないと説明されることが多い一方で、厚生労働省のマニュアルは対応の心得として「必要があれば相手の了解を得て録音する」と書いています。
また、録音・録画にあたっては個人情報の保護に関する法律等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこととも明記されています。

実務としては、次の3点を決めておけば十分です。個別の法的な可否については、弁護士にご確認ください。

決めておくこと 現実的な決め方
誰が録音データを聞けるか 管理職と相談窓口担当者に限定し、一般の従業員は聞けないようにする
どのくらい保存するか 3か月〜1年など期間を決め、期間を過ぎたものは自動で消す設定にする
何のために使うか 事実確認、再発防止、教育に限る。人事評価には使わないと明記する

3つめは特に大事です。録音を人事評価に使うと社員の抵抗が強まり、結果としてカスハラの相談自体が上がってこなくなります。

セキュリティログの保持期間は6か月で十分?(c-compe) ➡

「30分」を社内の目安にしておく

長時間の電話で拘束されるケースについて、マニュアルは具体的な目安を挙げています。
対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げる等の対応を行ったうえで、膠着状態に至ってから一定時間(30分程度)を超える場合は、お引き取りを願う、または電話を切る、というものです。

そのまま社内ルールにできる3行
1. 同じ説明を3回しても平行線になったら、上司に代わる(一人で抱えない)。
2. 膠着してから30分を超えたら、「これ以上はお答えできません」と伝えて終話してよい。
3. 終話したことで叱責されることはない。判断の責任は会社が持つ。

3行目がないと、このルールは機能しません。現場が電話を切れない最大の理由は、相手が怖いからではなく、切ったあとに社内で責められることが怖いからです。

繰り返しかかってくる相手への打ち手

マニュアルは、繰り返し理不尽な問い合わせが来る場合の対応例として、連絡先を取得してリスト化し、通話内容を記録したうえで、窓口を一本化して「今後同様の問い合わせは受けない」と伝えることを挙げています。

段階 打ち手 使う仕組み
1回目〜数回目 通常どおり対応し、通話を記録に残す 全通話録音
繰り返しが確認できた段階 窓口を一本化し、担当を固定する 特定の番号を専用の担当へ自動で振り分ける設定
方針を伝えたあとも続く場合 着信を自動でブロックする/別のガイダンスに流す 迷惑電話の自動ブロック機能
犯罪に該当し得る場合 警察へ通報する。必要に応じて弁護士に相談する 録音データを証拠として提出

「着信拒否は失礼ではないか」と気にされる会社もありますが、方針を文書で決め、相手に伝えたうえで行うのであれば、これは指針が想定している「抑止のための措置」そのものです。

電話に出ないという選択肢もある

そもそも人が電話に出る回数を減らす、という考え方もあります。一次受けを外部に任せる電話代行を使えば、従業員が直接罵声を浴びる場面そのものが減ります。

最近は、AIが用件を聞き取って要約し、担当者にはテキストで届く仕組みも出てきています。人が最初の罵声を受けなくて済むぶん、精神的な負担はかなり下がります。

東京都の奨励金は「外部人材の活用」も対象の取組として認めているので、この方向で要件を満たすことも可能です(詳細は後述します)。

電話以外(対面・メール・チャット・SNS)はどう記録する?

カスハラは電話だけで起きるわけではありません。記録の手段は、起きる場所ごとに違います。

起きる場所 記録の方法 費用感
対面(店舗・受付・訪問) 防犯カメラの録画、業務用のウェアラブルカメラ、複数名での対応と直後のメモ カメラは1台数万円〜
電話 全通話の自動録音 クラウドPBXなら標準機能のことが多い
メール そのまま残る。転送・共有のルールだけ決める 0円
チャット(取引先との共有チャット) そのまま残る。退職時にログが消えない設定にする 0円
SNS・口コミサイト スクリーンショットと日時の記録。削除申請は別途検討 0円
訪問先での言動 録音アプリ、または直後に時系列でメモを起こす 0円

メールとチャットは、何もしなくても記録が残る点で実はいちばん扱いやすい経路です。注意が要るのは、担当者の個人アカウントだけでやり取りしている場合です。
その人が退職するとログごと消えてしまうため、取引先とのやり取りは会社が管理するアカウント・共有の場に寄せておく必要があります。

なお、対面の記録として防犯カメラを使う場合は、カメラそのものの設定にも注意が必要です。初期パスワードのまま設置されたネットワークカメラは、映像が社外から見えてしまうことがあります。
従業員を守るために入れたカメラが、別のリスクを生まないようにしてください。

ネットワークカメラ・防犯カメラのセキュリティ対策(c-compe) ➡

オフィスの物理セキュリティ・入退室管理はどこまで必要?(c-compe) ➡

AIで通話を文字にするという選択肢

録音データは、そのままだと聞き返すのに時間がかかります。
厚生労働省のマニュアルも、予防・解決のための取組例として「通話内容を文字化するシステムで、通話内容をテキストでリアルタイムにチェックする」を挙げています。

文字になっていると、上司が短時間で状況をつかめるので、対応を代わる判断が早くなります。
被害を受けた本人に長い報告書を書かせずに済むという効果も大きく、これは二次被害を防ぐという意味でも価値があります。

AI議事録ツール Notta の詳細を見る(aclouds) ➡

相談窓口は、新しく作らなくてよい

相談を受ける体制を整え、現場を一人にしない

義務の②「相談体制の整備」で、多くの会社が身構えます。しかし厚生労働省のマニュアルは、専用の窓口を新設する必要はないとはっきり書いています。

相談窓口は、カスタマーハラスメントのために必ずしも新たに設ける必要はありません。
後述のように現場監督者を相談窓口(相談窓口担当者)として設定することや、
パワーハラスメント等を取り扱うハラスメント相談窓口や社内ヘルプライン等の既存の体制を活用することも考えられます。
また、外部の機関に相談への対応を委託することも可能です。

相談窓口担当者についても、従業員の上司や現場の管理監督者、比較的規模の小さい企業の場合は経営者等を設定することが考えられる、とされています。
実際、厚生労働省の調査では、カスハラを受けた後の行動として「社内の上司に相談した」が38.2%で最も多くなっています。

つまり、30名規模の会社であれば、「困ったら課長に言う。課長が不在なら社長に言う」と決めて全員に伝えるだけでも、形式上の要件は満たせます。
大事なのは、それが文書になっていて、全員が知っていることです。

いま持っているM365・Google Workspaceで作る相談の入口

口頭だけだと、言いにくい人の声が上がってきません。追加費用ゼロで用意できる入口を、もう1つ作っておくのが現実的です。

やり方 使うもの 向いている会社
入力フォームを作り、回答を担当者2名へ自動通知 Microsoft Forms / Googleフォーム 全社に配れる。匿名にもできる
専用のチャットグループを作り、そこに書けば相談扱いにする Teams / Google Chat / LINE WORKS 現場がスマホ中心の会社
社内ポータルに窓口と手順を1ページ置く SharePoint / Googleサイト 周知の記録が残せる
外部の相談窓口に委託する 社労士事務所・EAPサービス等 社内では言いにくい事情がある会社

フォームを作るときのコツは、質問を増やしすぎないことです。「いつ」「誰から」「何があったか」「今どういう状態か」の4つで十分です。項目が多いと、疲れ切った直後の人は入力できません。

⚠️ 忘れやすい2つの「併せて講ずべき措置」
相談した人のプライバシーを保護する措置を講じ、それを従業員に周知すること。
相談したことや事実確認に協力したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を定め、周知すること。
この2つは費用ゼロで、しかも文書に一文入れるだけです。ここが抜けていると、窓口を作っても誰も使いません。

方針とマニュアルは、どこに置いて、どう周知するか

①の「方針の明確化と周知」は、作ることよりも、全員に届いていることを証明できるかが重要です。紙で配ったきりだと、1年後には誰も内容を覚えていません。

置き場所 周知できたことの記録 更新のしやすさ
紙で配布・掲示 受領印や配布リストが必要 差し替えのたびに配り直し
共有フォルダにPDFを置く 見たかどうかは分からない ファイルが増えて版が分からなくなる
社内ポータル(SharePoint / Googleサイト)に1ページ置く 更新日が残る。リンクを配れば届く その場で直せる
社内Wiki・ナレッジツールに置く 閲覧履歴が残る製品もある 検索で出てくる

後述する東京都の奨励金でも、「カスハラ対策マニュアルの作成・周知」と「基本方針の社内・社外への周知」が要件になっています。社外への周知が入っている点に注意してください。
自社のWebサイトに、カスハラに対する考え方を1ページ載せておくのが最も手軽です。

ナレッジマネジメントツール NotePM の詳細を見る(aclouds) ➡

研修まで含めて考える

指針は、カスハラの内容とあらかじめ定めた対処の内容を従業員に周知することを求めています。
マニュアルが挙げている研修の内容例には、定義や該当行為例、正当な苦情との違い、類型別の対応方法、謝罪や話の聞き方、記録の作成方法などが並びます。

全員を集める時間が取れない会社では、eラーニングで配って受講履歴を残す方法もあります。受講記録が残ると、「周知した」ことを後から示しやすくなります。

記録の台帳は、まずスプレッドシート1枚で足りる

③の事後対応と⑤の再発防止のためには、起きた事案を蓄積しておく必要があります。専用のシステムを買う前に、1枚の表から始めるのが現実的です。

列(項目) 書く内容
発生日時 いつ起きたか(開始と終了の時刻まで書くと拘束時間が分かる)
経路 電話/対面/メール/チャット/SNS
相手 取引先名・顧客番号など(氏名は必要最小限に)
対応者 誰が受けたか
内容 何を言われたか・何を要求されたか(事実だけを時系列で)
記録の所在 録音ファイル名、カメラの日時、メールのスレッドなど
対応と結果 誰に代わったか、どこまで応じたか、終話の理由
再発防止 運用のどこを変えたか

ポイントは「記録の所在」の列です。録音は残っているのに、どの通話がその事案なのか分からない、という状態がいちばん多い失敗です。
台帳と録音がひも付いていないと、いざ弁護士に相談するときに探すだけで数日かかります。

件数が増えて集計が面倒になってきたら、ノーコードツールに移すタイミングです。スマホから写真付きで報告でき、担当者に自動で通知が飛ぶようになります。

東京都なら定額40万円。10月23日からの第2回が最後の募集

マニュアル整備と、録音・AI・外部人材のいずれか1つで奨励金の対象になる

東京都には、全国に先駆けて施行された東京都カスタマーハラスメント防止条例があり、これにあわせて「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金」が用意されています。
金額は定額40万円です。

項目 内容
支給額 定額40万円
対象事業者 常時雇用する従業員が300人以下の都内中小企業等(ほかにも要件あり)
必須の取組① カスハラ対策に関するマニュアルの整備(マニュアルの作成・周知、基本方針の社内・社外への周知)
必須の取組② 実践的な取組を1つ以上実施(下の3つのいずれか)
選べる取組(ア) 録音・録画環境の整備
選べる取組(イ) AIを活用したシステム等の導入
選べる取組(ウ) 外部人材の活用
対象となる実施時期 令和7年4月1日以降、事前エントリーまでに実施した取組
⚠️ 第2回(最終)募集のスケジュール
事前エントリー期間:令和8年10月23日(金)10時 〜 11月6日(金)17時
受付件数:5,000件。受付期間中はいつでもエントリーでき、先着順ではなく抽選です。
東京しごと財団の特設サイトには「今回の募集をもって、当初予定していた募集規模に達することが見込まれます。そのため、本事業の募集は今回で終了いたします。」と記載されています。
第1回で落選した事業者には別途案内があるとされています。募集要項・エントリー手順は特設サイトで公開されます。

注目していただきたいのは、選べる取組の(ア)に「録音・録画環境の整備」が、(イ)に「AIを活用したシステム等の導入」がはっきり書かれている点です。
つまり、義務化への対応として通話録音の仕組みを整えることが、そのまま奨励金の要件を満たします。

そして、対象になるのは令和7年4月1日以降に実施した取組です。すでに今年に入ってから録音環境を整えた会社も、対象になる可能性があります。

東京都カスハラ防止対策 企業向け奨励金 特設サイト(公式) ➡

東京しごと財団 奨励金のご案内(公式) ➡

⚠️ 申請前の注意
要件・対象経費・必要書類は募集要項で必ずご確認ください。制度は年度ごとに変わり、受付状況によって内容が変更されることもあります。
抽選であるため、エントリーしても採択されるとは限りません。奨励金が出る前提で資金計画を立てないことをおすすめします。
上記は2026年9月15日時点の公開情報にもとづく整理です。最終的な適否の判断は、必ず事務局にご確認ください。

東京都以外の会社はどうするか

都道府県や市によっては、独自のカスハラ対策補助金を用意しているところがあります。まずはお住まいの自治体の産業労働部門のページを確認してください。
そのうえで、全国どこでも使える制度との関係は次のように整理できます。

制度 カスハラ対策に使えるか 注意点
東京都 カスハラ奨励金 ◎ 録音・録画環境の整備が要件に明記されている 都内の中小企業等・抽選・今回で募集終了予定
デジタル化・AI導入補助金 △ 登録されたITツールが対象。クラウドPBXやAIツールが該当することはある カスハラ対策だけを目的にした申請はしにくい
中小企業省力化投資補助金 △ 単価50万円以上の設備投資が1つ以上必要 録音機器の単体導入では要件を満たしにくい
各自治体の独自補助金 ◯ 自治体により対象が異なる 募集期間が短いものが多い

正直に申し上げると、カスハラ対策そのものを目的にした全国共通の補助金は、いまのところ多くありません。
電話まわりを入れ替えるのであれば、通話料の見直しやスマホの内線化など、業務全体の効率化とセットで組み立てたほうが投資対効果は上がります。
なお、いずれの補助金も交付決定前に発注したものは対象外になるのが原則です。

費用はどのくらいかかる?30名の会社で試算する

ここまでの内容を、費用の観点で並べ直します。従業員30名・電話の同時通話が3〜4回線という想定です。

項目 初期費用の目安 月額の目安 備考
方針・マニュアルの整備 0円 0円 社内の作業時間のみ
相談窓口(フォーム・チャット) 0円 0円 M365・Google Workspaceの範囲で足りる
記録の台帳(スプレッドシート) 0円 0円 件数が増えたらノーコードへ
クラウドPBXへの切り替え(全通話録音込み) 3万〜15万円 1人あたり700〜2,000円程度 番号ポータビリティの可否は要確認
既存のビジネスフォンに録音装置を後付け 10万〜40万円 0円 拠点・回線ごとに必要
AIによる通話の文字起こし 0円〜 1人あたり1,000〜3,000円程度 必要な人だけに配ればよい
電話代行(一次受けの外部委託) 0円〜数万円 1万〜5万円程度 件数で料金が変わる
eラーニングでの研修 0円〜 1人あたり300〜1,000円程度 既存のグループウェアで代替できる場合も
判断の順番
1. まず0円の3つ(方針・窓口・台帳)を片付ける。これだけで10項目のうち5〜6項目は満たせます。
2. 次に、いまの電話で全通話が残るかを確認する。残るなら追加投資は不要です。
3. 残らない場合だけ、クラウドPBXへの切り替えか、録音装置の後付けかを比較する。
4. 東京都の会社であれば、2と3の作業を10月23日のエントリーに間に合わせられないかを検討する。

金額だけを見れば録音装置の後付けが安く見えることもありますが、拠点が複数ある会社や、担当者の携帯にかかってくる会社では、結局すべてをカバーできずに二重投資になりがちです。

総務・情シスがつまずきやすい8つのこと

落とし穴 起きること 先に決めておくこと
録音が一部の番号だけ 現場の携帯にかかってきた分が残っていない どの番号・どの端末まで残すかを一覧にする
録音ボタンを押す運用 いちばん残したい場面で押し忘れる 自動で全通話を残す設定にする
録音データを誰でも聞ける 従業員の不信につながり、相談が上がらなくなる 聞ける人を管理職と窓口担当に限定する
保存期間を決めていない 容量が増え続け、必要なときに探せない 3か月〜1年など期間を決め、自動削除にする
台帳と録音がひも付いていない 事案に対応する録音を探すのに数日かかる 台帳に「記録の所在」の列を作る
窓口担当が1名だけ その人が不在・当事者のときに機能しない 必ず2名以上にし、別ルートも用意する
方針を社外に出していない 奨励金の要件を満たさない。抑止にもならない 自社サイトに考え方を1ページ載せる
電話を切ってよい基準がない 現場が切れず、拘束時間が延び続ける 膠着30分の目安と、責任は会社が持つ旨を明文化する

最後の1つが、実務ではいちばん効きます。ルールを増やすことより、現場が判断してよい範囲をはっきりさせるほうが、従業員は守られます。

名札の書き方を変えるだけの対策もある

費用をかけずにできる対策として、名札の表示方法を変える会社が増えています。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」で紹介されている飲食業の事例では、名札の情報からSNSで検索されて付きまとわれるトラブルをきっかけに、氏名の表記をイニシャルへ変更しています。
名札そのものをなくす案もあったものの、スタッフ間のコミュニケーションのために記載内容の変更にとどめた、という経緯も紹介されています。

受付や店頭に立つ従業員がいる会社であれば、今日から検討できる対策です。

そもそもカスハラを起こさないためにできること

厚生労働省が2024年に行ったスーパーマーケット業界の実態把握調査では、カスハラに発展した原因の上位が「顧客対応・サービス等の遅延」(71.2%)、「対応者の説明・コミュニケーションの不足」(63.6%)でした。
対応する側の不備がきっかけになっている場合も多い、という結果です。

つまり、記録の仕組みと同じくらい、「待たせない」「たらい回しにしない」という基本が効きます。これはITで改善できる部分です。

よくある不満の入口 打ち手 使う仕組み
電話がつながらない・待たされる 着信を複数人で受けられるようにする/折り返しの仕組みを作る クラウドPBXの着信グループ
担当者につながるまでたらい回し 用件ごとに最初から振り分ける IVR(自動音声応答)
前回の経緯が引き継がれていない 誰が出ても過去の対応が見える 顧客管理と電話の連携
折り返すと言ったまま連絡が来ない 対応の期限を管理する 台帳・ノーコードツールの通知
言ったことが伝わっていない 対応内容を記録に残す 通話録音・AIによる文字起こし

カスハラ対策としての設備投資は、こうして見ると「守り」だけの支出ではありません。同じ仕組みが、日々の問い合わせ対応の速さそのものを引き上げます。

今日からできる3ステップ

ステップ やること 所要時間 費用
STEP1 いまの電話で、どの番号・どの端末の通話が録音されているかを書き出す 30分 0円
STEP2 「困ったら誰に言うか」を1枚の紙にして全員に配り、社内ポータルにも置く 1時間 0円
STEP3 STEP1で抜けている経路について、録音を追加する方法と費用を2社以上から聞く 2週間 0円

STEP1を飛ばすと、STEP3で各社が違う前提の見積りを出してくるため、比較ができなくなります。逆に、STEP1の一覧さえあれば、それがそのまま見積り依頼書として使えます。

東京都の会社で奨励金を狙う場合は、10月23日のエントリー開始までに、マニュアルの整備と社内・社外への周知を済ませておく必要があります。逆算すると、9月中に方針を固めておきたいところです。

よくある質問

Q. 従業員が10名ほどの会社でも対象になりますか?

A. 対象になります。労働者を雇用するすべての事業主が対象で、企業規模による猶予期間は設けられていません。
ただし規模が小さいほど、専用の窓口や大がかりなシステムは必要なく、経営者や上司を相談先に定めて全員に伝えるだけでも要件を満たせます。

Q. 通話録音を入れないと、義務違反になりますか?

A. 録音そのものが直接の義務というわけではありません。ただし指針は、悪質な言動への対処を実際に行える体制を整えることまで求めています。
電話での対応について厚生労働省のマニュアルは「通話内容を録音できるようにしておく」と明記しており、記録が残らない状態では対処に踏み切れないのが実情です。

Q. お客様に「録音するな」と言われたらどうすればよいですか?

A. 会社として録音する方針を定めているのであれば、そのことを丁寧にお伝えするのが基本です。厚生労働省のマニュアルも「必要があれば相手の了解を得て録音する」としています。
録音を強く拒まれる場合は、その事実自体も記録に残し、対応を上司に代わる判断材料にしてください。個別の可否については弁護士にご確認ください。

Q. 東京都の奨励金は、いまから準備して間に合いますか?

A. 第2回の事前エントリーは令和8年10月23日10時から11月6日17時までで、対象になるのは令和7年4月1日以降に実施した取組です。
マニュアルの整備と周知、そして録音・録画環境の整備などの取組を10月中に実施できれば間に合う計算になります。ただし先着順ではなく抽選で、この募集をもって事業は終了する予定と案内されています。

まとめ|義務を果たすことと、現場を守ることは同じ作業

やること 費用 いつまでに
方針を決めて全員に周知する 0円 9月中
相談窓口を定める(既存の体制でよい) 0円 9月中
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止を明文化する 0円 9月中
記録の台帳を1枚作る 0円 9月中
いまの電話で全通話が残るかを確認する 0円 9月中
残らない経路の録音環境を整える 3万〜40万円 10月中(東京都の奨励金を狙う場合)
研修で内容と対処を周知する 0円〜 施行後でも可

カスハラ対策は、書類を揃えるための作業だと思われがちです。
しかし実際に効くのは、現場が「ここから先は会社が引き取る」と分かっていることと、その判断を裏づける記録が残っていることの2つだけです。
この2つが揃っていれば、従業員は理不尽な要求に一人で耐えなくて済みます。

株式会社アーデントでは、クラウドPBXによる全通話録音やIVRの設定、電話代行の手配、Microsoft 365・Google Workspaceを使った相談窓口や記録台帳の整備まで、まとめてご相談いただけます。
東京都の奨励金の対象になりそうかどうかの整理も含めて、まずは現状をお聞かせください。

厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 ➡

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