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【2026年版】給与明細の電子化に同意書は必要?|「みなし承諾」で全員分は不要になった話と、中小企業の進め方・費用

給与明細の電子化の全体像

給与明細を紙で配るのをやめたい。そう考えて調べ始めると、必ず「従業員の同意が必要」という説明に行き当たります。
そして「全員から同意書を集めるのは現実的ではない」と、そこで止まってしまう会社がとても多いのが実情です。

ところが2023年度と2024年度の税制改正で、この前提は変わりました。会社が決めた期限までに返事がなかった人は、承諾があったものとみなしてよい仕組み(みなし承諾)が用意されたためです。
つまり、全員分の同意書を回収しなくても電子化を始められます。

この記事では、給与明細の電子化について「法律で何が義務なのか」「同意はどこまで必要なのか」「本当に費用は下がるのか」を、中小企業(従業員30〜300名)の総務・経理・情報システム担当の方に向けて、国税庁と法令の一次情報をもとに整理します。

先に結論(3行)
1. 給与明細の電子化には従業員の承諾が必要ですが、期限までに返事がない人は「みなし承諾」として扱えます。全員分の同意書は必須ではありません。
2. ただし「紙でほしい」と請求された人には、承諾済みでも紙で渡す義務が残ります。ここは改正後も変わっていません。
3. 給与明細だけ電子にしても、12月に年末調整と源泉徴収票で紙が復活します。同じ枠組みで一緒に電子化するのが近道です。

目次

まず15分でできる確認は3つ

製品を比較する前に、いま手元にあるもので確認できることが3つあります。ここが分かるだけで、追加費用が必要なのか、それとも設定だけで済むのかがほぼ判断できます。

確認すること どこで見るか 分かること
いま使っている給与計算ソフトに電子交付の機能があるか ソフトの管理画面か提供元のサイト 追加契約なしで始められる可能性がある
全従業員が会社のメールアドレスかアカウントを持っているか Microsoft 365 / Google Workspace の管理画面 現場・パートの受け取り方を別に考える必要があるか
いま紙をどう配っているか(手渡し・郵送の人数) 総務の配布リスト 電子化でどれだけ作業が減るか
いちばん多い誤解
「給与明細を電子化する=新しいシステムを買う」と考えてしまうケースが非常に多いのですが、freee・マネーフォワード・弥生など主要な給与計算ソフトには、Web給与明細の機能が標準またはオプションで用意されていることが多いです。
すでに給与計算をソフトで行っているなら、まずその機能が契約に含まれていないかを確認してください。含まれていれば、追加費用ゼロで今日から準備を始められます。

そもそも給与明細を渡すのは義務? 3つの法律が重なっている

給与明細は「渡したほうが親切だから渡している書類」ではありません。実際には性格の違う3つの義務が、1枚の紙の上で重なっています。
ここを分けて理解しておくと、どこまで電子化できるのかがはっきりします。

根拠となる法律 何の義務か 誰に対して 電子化できるか
所得税法 第231条1項 給与等の支払明細書を交付する 本人 できる(承諾が必要)
健康保険法 第167条3項 控除した保険料の額を通知する 本人 できる
厚生年金保険法 第84条3項 控除した保険料の額を通知する 本人 できる
労働基準法 第108条 賃金台帳を作って事業場に備える 会社の帳簿(本人に渡すものではない) 別の話

所得税法が「交付しなければならない」と定めている

給与明細を渡す義務の中心は所得税法です。条文は次のようになっています。

第二百三十一条 居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。

「交付しなければならない」と書かれているとおり、給与明細を渡さないことは法律上認められていません。正社員だけでなく、パート・アルバイト・役員報酬も対象です。

明細に何を書くかは、法律から逆算できる

意外に知られていませんが、所得税法が求めている記載事項そのものは多くありません。所得税法施行規則第100条が定めているのは、次の4つだけです。

所得税法が求める記載事項 内容
支払金額 その支払に係る給与等の金額
源泉徴収税額 徴収された所得税の額
過納額の還付額 年末調整などで還付した金額
定額減税の控除額 給与特別控除額のうち控除した金額(2024年の定額減税に対応する項目)

勤怠の時間数や社会保険料の内訳は、所得税法の必須項目には含まれていません。では社会保険料はどこから来るのかというと、次に説明する健康保険法と厚生年金保険法の通知義務です。
給与明細の様式は、この2系統の義務を足し合わせた結果として決まっていると理解しておくと、電子化のときにどの項目を落としてはいけないかが判断できます。

社会保険料を引いたら「いくら引いたか」を伝える義務もある

見落とされがちなのが、健康保険法と厚生年金保険法にある通知義務です。どちらも同じ書き方で、次のように定めています。

事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
(厚生年金保険法 第84条3項。健康保険法 第167条3項も同趣旨)

つまり給与明細は、所得税法の「支払明細書」と、社会保険の「控除額の通知」を同時に兼ねている書類です。
どちらの義務も電子で果たせますが、控除額が読み取れない形にしてしまうと通知の役目を果たせなくなる点には注意してください。
画面を小さくしすぎて金額が切れる、といった実装上の問題は意外に起きます。

賃金台帳と給与明細は別物(ここを混同しない)

労働基準法第108条が定める賃金台帳は、会社が事業場ごとに備え付ける帳簿です。本人に渡す給与明細とは目的も保存義務も違います。

給与明細 賃金台帳
渡す相手 従業員本人 渡さない(会社が保管)
主な根拠 所得税法231条ほか 労働基準法108条
保存義務 会社側に法定の保存年数の定めはない 5年間(当分の間3年間)
電子化 本人の承諾が必要 要件を満たせば電子保存が可能
保存年数の注意
賃金台帳などの保存期間は労働基準法第109条で5年間と定められていますが、第143条の経過措置により当分の間は3年間とされています。
「3年でよい」と覚えている方が多いのですが、法律の本体は5年です。運用としては5年で設計しておくほうが、あとで作り直さずに済みます

紙の給与明細から電子交付へ切り替えるイメージ図

電子化するには何が必要? 国税庁が示す3つの要件

給与明細を電子で渡すこと(電子交付)は、所得税法第231条2項で認められています。ただし無条件ではなく、国税庁が示す要件を満たす必要があります。整理すると3つです。

要件 内容 満たさないとどうなるか
① 承諾を得る あらかじめ用いる電磁的方法の種類と内容を示し、電磁的方法か書面で承諾を得る 交付したことにならない
② 方式の基準を満たす 画面に表示でき、紙に出力できること/記録した旨を通知すること 同上
③ 請求があれば紙で渡す 本人から書面交付の請求があったときは書面で交付する 法律違反になる

電子交付の方法は3つある

国税庁は電子交付の方法として次の3つを挙げています。中小企業で現実的なのは1つ目と2つ目です。

方法 具体例 中小企業での使いやすさ
電子メールを利用する PDFをメールに添付して送る 小規模なら可。ただし誤送信の危険が残る
社内LAN・Web上で閲覧に供する 給与計算ソフトの従業員ポータルにログインして見てもらう ◎ いちばん現実的
CD等の媒体に記録して交付する CD-Rに書き込んで渡す × 現在ほぼ使われない

2つ目の方法を選んだ場合は、閲覧できるようになった旨を本人に通知する必要があります
ただし国税庁は、本人が閲覧したことを会社が確認できた場合は通知を省略しても差し支えないとしています。実務では「給与日の朝に一斉メールが自動送信される」設定にしておけば足ります。

「必ずパスワードをかけないといけない」は誤解

電子交付の解説記事のなかには「どの方法でもパスワードを設定して交付する必要がある」と書かれているものがありますが、国税庁が示す要件にパスワードの設定は含まれていません
求められているのは「画面に表示できること」「紙に出力できること」「記録した旨を通知すること」の3点です。

とはいえ、メールにPDFを添付する運用なら誤送信で他人の給与額が漏れます。パスワードは法律の要件ではなく、実務上の安全対策として考えるのが正しい整理です。
なお、パスワードを同じ経路の別メールで送る方式は、誤送信したときに両方が同じ相手に届くため対策になりません。

改ざん防止の措置は必須ではない(国税庁の見解)
国税庁は「支払者等と受給者等との間では、法令上、改変できないような措置は求められていません」としたうえで、電子データは改変が容易な面もあるため、真実性を担保するには電子署名を付し電子証明書を添付することを勧めるとしています。
つまり電子署名は義務ではなく推奨です。まずは始めて、必要になった段階で検討すれば十分です。

承諾を得るときに伝える6項目

承諾の書式に法令上の決まりはありません。国税庁は、次のような事項を示して「承諾する旨・承諾日・氏名」を入力してもらう方法を挙げています。

伝える項目 書き方の例
電子交付する書類の名称 給与等の支払明細書、給与所得の源泉徴収票
電磁的方法の種類と具体的な方法 社内ポータルにログインして閲覧する方式、閲覧用のURLと手順
受信者ファイルへの記録方法 PDF形式で掲載する
交付予定日 給与支給日に掲載する
交付開始日 2026年◯月分から
その他参考となる事項 紙での交付を希望する場合の申し出先

一度承諾を得ておけば、毎月あらためて承諾を取り直す必要はありません。

国税庁「源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A」を見る ➡

2023〜2024年の改正で「みなし承諾」が使えるようになった

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。従来は全員から承諾を取らなければ電子化を始められませんでした。
令和5年度・令和6年度の税制改正により、返事がない人を承諾したものとみなす仕組みが用意されています。国税庁のQ&Aには次のように書かれています。

支払者が受給者から電子交付の承諾を得ようとする際に、「支払者が定める期限までに承諾に係る回答がない時は承諾があったものとみなす」旨の通知をあらかじめ受給者に行い、上記期限までに受給者からの回答がなかった場合には、電子交付の承諾があったものとみなされます。

つまり「期限までにお返事がない場合は、電子交付に同意いただいたものとして扱います」と先に伝えておけば、返事をくれなかった人の分も電子で交付できます。
同意書の回収率が上がらず電子化が止まる、という最大のボトルネックが制度として解消されています

みなし承諾が使える書類・使えない書類

書類 みなし承諾
給与等の支払明細書(毎月の給与明細) 使える
給与所得の源泉徴収票 使える
退職所得の源泉徴収票 使えない
退職手当等の支払明細書 使えない
公的年金等の源泉徴収票・支払明細書 使えない

毎月の給与明細と、年末に配る源泉徴収票のどちらも対象です。中小企業の実務で使いたい書類はほぼカバーされていると考えて差し支えありません。
一方で退職金に関する書類はみなし承諾の対象外なので、退職者には個別に承諾を得るか、紙で渡す前提にしておきます。

回答期限はどれくらい取ればよい?

回答期限について法令上の定めはありません。国税庁は「回答に必要な期間を十分に見積もっていただくようお願いします」としています。
実務では、案内してから2週間から1か月程度を取り、給与明細への同封や朝礼など、必ず本人の目に触れる方法を併用するのが安全です。

就業規則に書く必要はない

通知の方法についても法令上の規定はなく、電子メールでも書面でも構いません。制度の周知にあたって就業規則や規約に記載することも、法令上は特に求められていないと国税庁は明記しています。
規程の改定を待たずに始められる、という点も押さえておきたいところです。

そのまま使える「みなし承諾」の案内に入れる要素
① いつから電子交付に切り替えるか(交付開始日)
② どこで見られるか(ログイン方法と手順)
◯月◯日までに回答がない場合は同意いただいたものとして扱う旨
④ 紙を希望する場合の申し出先と方法
⑤ 過去分をいつまで見られるか
⚠️ みなし承諾でも、これは変わりません
みなし承諾はあくまで「承諾を得る手続き」を簡単にする仕組みです。本人から書面交付の請求があったときに紙で渡す義務(所得税法231条2項ただし書)は、まったく変わっていません
また、一度承諾した人から「電子交付を受けない」という申し出があった場合、その申し出以後は、改めて申し出があるまでその人に電子交付はできません。
税務上はみなし承諾で足りますが、労務トラブルを避ける観点では、説明会や書面で丁寧に案内し、できるだけ明示の同意を取っておくほうが安全です。この点は顧問社会保険労務士にもご確認ください。

みなし承諾の回答期限と交付する書類の関係を示した図

電子化しても紙が残る3つの場面

「電子化=紙をゼロにできる」と考えていると、運用が始まってから慌てます。制度上、紙が残る場面はあらかじめ決まっています。

場面 対応 準備しておくこと
本人から書面交付の請求があった 紙で交付する義務がある 申し出の窓口と、その人だけ紙で出す手順
一度承諾した人が「紙に戻したい」と申し出た 以後、改めて申し出があるまで電子交付できない 誰が紙かを管理する一覧
退職者に渡す分 アカウントを止めると本人が見られなくなる 退職手続きに「過去分の保存案内」を1行足す
実際のご相談でいちばん多いのは3つ目です
退職日にアカウントを停止した結果、退職者が過去の給与明細と源泉徴収票を見られなくなり、あとから会社に再発行を依頼してくるというご相談が少なくありません。
住宅ローンの審査や転職先の手続きで、退職後に必要になることが多い書類です。退職手続きのチェックリストに「在職中に過去分をダウンロードしてもらう」の1行を足すだけで、この問い合わせはほぼ消えます

「紙がいい」と言われたときは、説得しようとしない

電子化がうまくいかない会社の多くは、反対する人を説得しようとして止まります。しかし法律上、紙を請求されたら紙で渡す義務があるため、説得は目的になりません

現実的なのは「紙希望の人は何人いるか」を数えて、その人数分だけ紙を出す手順を残すという設計です。30名のうち3名が紙希望なら、印刷は3枚で済みます。
全員を電子にすることではなく、27名分の作業をなくすことが目的だと考えると、話が前に進みます。

なお、紙を希望する理由として多いのは「パソコンを持っていない」「ログインの仕方が分からない」「あとで見られなくなるのが不安」の3つです。
このうち後ろの2つは、手順書の配布と閲覧可能期間の明示で解消できることが少なくありません。

給与明細だけ電子にしても、12月に紙が復活する

毎月の給与明細を電子にしても、年末になると年末調整の書類と源泉徴収票で紙の作業が戻ってきます。
ここまで含めて設計しないと、「電子化したのに担当者の作業はあまり減っていない」という結果になりがちです。

源泉徴収票の電子交付は所得税法第226条4項に定められており、給与明細と同じ枠組みです。承諾が必要で、請求があれば書面で交付し、みなし承諾の対象にもなっています。
つまり同じ案内文で、給与明細と源泉徴収票をまとめて承諾を取ってしまうのが最も効率的です。

書類 根拠 承諾 みなし承諾
毎月の給与明細 所得税法231条2項 必要 対象
源泉徴収票 所得税法226条4項 必要 対象
年末調整の申告書(本人から会社へ) 別の仕組み(税務署への承認申請は不要) 会社側の承諾は不要
源泉徴収票を電子で渡すときの細かい注意
国税庁は、電子交付した源泉徴収票について書面で交付したものと区別するため、「摘要」欄に「電子交付」と表示するなど、電子交付であることが分かるようにしてくださいと注記しています。
この1行を忘れると、あとから紙と電子のどちらで渡したのか分からなくなります。ソフトの設定で自動的に入るかどうかを、導入時に確認しておきましょう。

電子化した明細は、いつまで見られるようにする?

電子化でいちばん設計を忘れられるのが、閲覧できる期間です。会社側に給与明細の法定保存年数はありませんが、実務上は従業員から遡って請求されます。

期間の考え方 理由 おすすめ
最低1年 住宅ローンや保育園の手続きで直近分が要る 短すぎる
3年 賃金台帳の当分の間の保存期間に合わせる 最低ライン
5年 労働基準法109条の本来の年数に合わせる ◎ 推奨
無期限 サービスによっては容量課金になる 契約内容を要確認

賃金台帳の保存年数(本来5年、当分の間3年)とそろえておくと、社内の説明がしやすくなります。
加えて、サービスを乗り換えるときに過去分がどうなるかを、契約前に必ず確認してください。解約と同時に過去の明細が見られなくなる設計のサービスもあります。

乗り換え時に確認したい3点
① 解約後、過去分の閲覧はいつまでできるか
② 過去分を一括でダウンロード(書き出し)できるか、形式は何か
③ 従業員側の操作なしで会社が一括保存できるか

総務担当者と情報システム担当者が給与明細の電子化を検討している様子

費用はどれくらい? 本当に安くなるのかを正直に整理する

電子化の記事の多くは「コスト削減になります」で終わっていますが、実際に数字を置いてみると、規模によっては劇的に安くなるわけではありません。まず紙で配っている場合の費用から見ていきます。

紙で配っている場合の年間コスト(30名の例)

費目 単価の目安 30名・年間
用紙・専用封筒・トナー 1人あたり月20〜40円 約7,200〜14,400円
郵送する分(15名と仮定) 定形郵便 110円/通 約19,800円
印刷・封入・仕分け・配布の作業 月2時間・時給2,500円換算 約60,000円
紛失時の再発行対応 月0.5時間 約15,000円
合計 約10万円/年

郵便料金は2024年10月の改定で、定形郵便物が50gまで一律110円になりました。拠点が分かれていたり、直行直帰の社員が多い会社ほど郵送の比率が上がり、この金額は膨らみます。

日本郵便「国内の料金表(手紙・はがき)」を確認する ➡

電子化した場合の費用

パターン 費用の目安(30名) コメント
いま使っている給与計算ソフトに機能が含まれている 追加費用ゼロ まずここを確認する
給与明細の配信機能をオプション追加する 月2,000〜6,000円程度 年2.4万〜7.2万円
Web給与明細の専用サービスを新規契約する 1人あたり月100〜300円程度 年3.6万〜10.8万円
社内の作業時間(初年度の案内・登録) 10〜20時間 初年度のみ発生
正直な結論:新規契約すると、金額だけでは大きく変わらないことがある
30名・1拠点で全員に手渡ししている会社の場合、専用サービスを新しく契約すると、浮く金額と払う金額がほぼ同じになることがあります。
一方で、いま使っている給与計算ソフトに機能が含まれているなら、年10万円前後の作業がまるごと消えます。ここが最初に確認すべきポイントである理由です。
また、金額に表れない効果として「給与日に担当者が半日拘束されない」「紛失の再発行がなくなる」「支給日当日に全拠点へ同時に届く」があります。金額だけで判断すると、この部分を見落とします。

効果が出やすい会社/出にくい会社

効果が出やすい 効果が出にくい
拠点・店舗・現場が分かれている 全員が1か所に出社している
郵送している人がいる 全員に手渡しできている
直行直帰・在宅勤務が多い 紙でも当日中に全員へ渡せている
再発行の依頼が毎月のように来る 再発行の依頼がほとんどない
年末調整も紙でやり取りしている すでに年末調整は電子化済み

メリットとデメリットを、会社側と従業員側に分けて整理する

電子化の話が社内で進まない原因の多くは、「会社が楽になるだけで従業員には関係ない」と受け取られてしまうことです。立場を分けて整理しておくと、案内文も書きやすくなります。

会社側のメリット・デメリット

メリット デメリット
印刷・封入・仕分け・配布の作業がなくなる 初年度は案内とアカウント配布の工数がかかる
支給日当日に全拠点へ同時に届く 紙を希望する人がいる間は二重運用になる
紛失による再発行の依頼がなくなる 会社アカウントがない従業員への対応が必要
過去分の保管スペースが不要になる サービスを新規契約する場合は月額費用が発生する
年末調整・源泉徴収票とまとめて電子化できる 乗り換え時に過去分の扱いを確認する必要がある

従業員側のメリット・デメリット

メリット デメリット
紛失しない。汚れない 見るためにログインが必要になる
過去分をいつでも自分で確認できる 通知に気づかず見落とすことがある
住宅ローンや保育園の手続きですぐ出せる 端末を持っていないと確認しにくい
在宅勤務や直行直帰でも支給日に受け取れる 退職後はアカウントが止まると見られない
案内文では「従業員側のメリット」を先に書く
社内案内を「ペーパーレス化のため」から書き始めると、会社の都合に見えて反発が出やすくなります。
「なくさない」「過去分をいつでも見られる」「住宅ローンの手続きですぐ出せる」から書き始めると、同じ内容でも受け取られ方が変わります。デメリット側の「見落とし」「退職後」についても、対策とセットで先に書いておくと質問が減ります。

サービスの種類と、選ぶときの6つのチェックポイント

給与明細を電子化する手段は、大きく3種類あります。どれを選ぶかで、毎月の手間と将来の乗り換えやすさが変わります。

種類 内容 向いている会社
給与計算ソフトの標準機能 いま使っているソフトの中で明細を配信する ◎ すでに給与計算をソフトで行っている会社
Web給与明細の専用サービス 配信に特化したサービスを別途契約する 給与計算を外部委託している会社
グループウェアで自前配信 OneDriveやマイドライブに個別配置する △ 人数が少なく手作業でも回る会社

多くの中小企業にとっては1つ目が第一候補です。給与計算と同じ画面で完結するため、金額を書き出して別のサービスに取り込むという毎月の作業が発生しません。

契約前に確認する6項目

チェック項目 なぜ必要か
いまの給与計算ソフトと連携できるか 連携できないと毎月の書き出し・取り込みが手作業になる
源泉徴収票も同じ画面で配れるか 年末に紙の作業が戻ってしまうのを防ぐ
スマートフォンで金額まで読めるか 現場・店舗の従業員はほぼスマートフォンで見る
過去分を何年見られるか/一括で書き出せるか 乗り換えや解約のときに過去分が失われないようにする
多要素認証と権限設定ができるか 給与額は本人以外に見られたときの影響が大きい
紙希望者を一覧で管理できるか 書面交付の請求に応じる義務があるため、誰が紙かを常に把握する必要がある
最後の1項目は見落とされがちです
電子化しても、紙を請求された人には紙で渡す義務が残ります。ところが「誰が紙希望か」を管理する機能は、比較表ではほとんど比べられていません。
人数が増えたときに表計算ソフトで別管理すると、必ず漏れます。申し出を受けたらその場でシステム側に記録できるかを、デモの段階で確認しておくことをおすすめします。

スマホで見てもらうときの注意

現場や店舗の従業員に届ける場合、実際の閲覧はほぼスマートフォンになります。ここで起きやすい問題は決まっています。

起きること 原因 対策
ログインできない人が続出する 初回のパスワード設定でつまずく 図入りの手順書を1枚配り、初回だけ対面で確認する
金額が見切れて読めない 画面が小さくPDFが横長 スマホ表示に対応したサービスを選ぶ
私物スマホしか持っていない 会社支給の端末がない 私物利用のルールを決めたうえで閲覧のみ許可する
退職後に見られない アカウント停止と同時に閲覧不可になる 在職中のダウンロードを案内する

なお、国税庁は「紙に出力できること」を要件としていますが、従業員がプリンターを持っているかどうかまで会社が確認する必要はないとしています。
会社側で出力できる状態になっていれば要件は満たされます。

総務・情シスが見落としやすい落とし穴8つ

制度よりも、実際につまずくのは運用面です。ご相談でよく出てくるものを挙げます。

落とし穴 何が起きるか 対策
全員が会社のアカウントを持っていない 現場・パートの人だけ受け取れない 閲覧専用アカウントを配る、または該当者だけ紙で運用する
個人のメールアドレスに送っている 退職後も送り続ける、宛先間違いで他人に届く 会社が管理するアカウントに寄せる
パスワード付きPDFを別メールで送っている 同じ経路なので安全性がほぼ向上しない ログインして閲覧する方式に切り替える
退職者が過去分を見られない 退職後に再発行の依頼が来る 退職手続きに事前ダウンロードの案内を入れる
多要素認証をかけていない IDとパスワードだけで給与額を見られてしまう 多要素認証を有効にする
全員分を見られる担当者が多すぎる 見る必要のない人が全社員の給与を閲覧できる 権限を人数ではなく役割で絞る
過去分を何年分見せるか決めていない あとから遡れず問い合わせが増える 最低でも3〜5年分は閲覧できる設計にする
紙希望の申し出窓口を決めていない 現場で個別対応になり管理できなくなる 申し出先と様式を最初に決めておく
給与明細は「個人情報の中でも扱いが重い」データです
給与額は、本人以外に知られたときの影響が大きい情報です。誤送信や権限設定のミスが起きると、社内の信頼関係に直接響きます。
電子化の検討と同時に、多要素認証と権限の見直しをセットで行うことをおすすめします。どちらも多くの場合、追加費用なしで設定できます。

セキュリティの重要性と多要素認証(2FA)の役割を見る ➡

改正個人情報保護法と漏えい時72時間報告の実務対応を見る ➡

導入の5ステップ(実働はおおむね10〜20時間)

ステップ やること 目安 費用
STEP1 いまの給与計算ソフトに電子交付機能があるか確認する 15分 0円
STEP2 電子化する書類の範囲を決める(給与明細+源泉徴収票) 30分 0円
STEP3 案内文を作り、みなし承諾の期限を決めて全員に配る 2〜3時間 0円
STEP4 アカウントを配布し、全員がログインできるか確認する 3〜8時間 0円〜
STEP5 1か月だけ紙と電子を並行し、問題がなければ紙をやめる 1か月 0円
STEP5を飛ばさないでください
いきなり紙をやめると、ログインできない人が出たときに「今月の明細を誰も見られない」という状態になります。
最初の1か月だけ紙と電子を並行すると、ログインできない人を確実に洗い出せます。1か月分の紙代は、やり直しのコストに比べればはるかに安い保険です。

なお、STEP3の案内文は総務だけで作ると「システムの話」になりがちです。
情報システム担当が「ログインの手順」を1枚にまとめ、総務が「いつから・なぜ・紙が欲しいときはどうするか」を書くと、問い合わせが目に見えて減ります。

補助金は使える?

給与明細の電子化そのものを目的にした補助金はありませんが、給与計算・勤怠・年末調整などをまとめてクラウド化する場合は、対象になりうる制度があります。

制度 給与明細の電子化での使いやすさ 注意点
デジタル化・AI導入補助金 登録されたITツールであれば対象になりうる 既存契約の設定変更だけでは対象になりにくい
中小企業省力化投資補助金(一般型) 単価50万円以上の設備投資が必須 ソフトの利用料だけでは要件を満たしにくい
各自治体のデジタル化支援 自治体により対象が異なる 公募要領で対象経費を要確認
共通の注意 交付決定前の発注・契約は対象外 先に契約してしまうと使えなくなる
申請するなら「給与明細だけ」で組み立てない
給与明細の電子化は、単体では申請の手間に見合わないことがあります。
勤怠管理・給与計算・年末調整・経費精算をまとめて見直し、業務全体のデジタル化として組み立てるほうが、補助対象としても社内の投資判断としても通りやすくなります。
なお補助金の要件は年度ごとに変わります。最新の公募要領をご確認のうえ、判断に迷う部分は専門家にご相談ください。

Microsoft 365 / Google Workspace を使っている会社はどうする?

すでにグループウェアを導入している会社では「共有ドライブに置けばいいのでは」と考えがちですが、給与明細については注意が必要です。

やり方 評価 理由
給与計算ソフトの従業員ポータルで閲覧させる 本人しか見られない設計になっている
個人のOneDrive / マイドライブに1人ずつ配置する 運用は可能だが、毎月の配置作業が人手になる
共有ドライブ・SharePointのフォルダに全員分を置く × 権限設定を1か所間違えると全員分が見える
メールにPDFを添付して送る 宛先を1件間違えると他人に給与額が届く

会社のアカウント基盤があること自体は大きな利点です。
本人確認とログインの仕組みがすでにあるため、給与明細の配信先を会社アカウントに寄せるだけで、誤送信と退職者対応の両方が一気に楽になります

退職者のアカウントをちゃんと削除していますか?を見る ➡

給与計算・勤怠とあわせて見直すなら

給与明細の電子化は、給与計算ソフトと勤怠管理をどう組み合わせるかで手間が大きく変わります。当社で取り扱っている主なサービスは次のとおりです。

freee会計(クラウド会計・人事労務)を見る ➡

マネーフォワード(バックオフィスがオールインワン)を見る ➡

勤怠管理システム「勤革時」を見る ➡

よくあるご質問

Q. 給与明細の電子化に、全員の同意書は必ず必要ですか?

A. 必須ではありません。国税庁が示すとおり、期限までに回答がない場合は承諾があったものとみなす旨を事前に通知しておけば、返事がない人も電子交付できます。
ただし紙を請求された場合は紙で渡す義務が残ります。

Q. 従業員に反対されたら、その人だけ紙にしてよいのですか?

A. はい。所得税法231条2項のただし書により、本人から書面交付の請求があったときは紙で交付する必要があります。全員を電子に揃える必要はなく、紙希望の方だけ紙で運用して差し支えありません。

Q. 従業員10名の会社でも電子化する意味はありますか?

A. 配布に手間がかかっていなければ、金額面の効果は限定的です。ただし拠点が分かれている、郵送している、年末調整も紙という場合は10名規模でも効果が出ます。
まず配布方法を確認してから判断してください。

Q. 電子化にあたって就業規則の改定は必要ですか?

A. 国税庁は、みなし承諾の通知について就業規則や規約への記載は法令上特に求められていないとしています。税務上は改定なしで開始できますが、労務面の扱いは顧問社会保険労務士にご確認ください。

まとめ

給与明細の電子化は、制度の理解さえ揃えば、多くの中小企業が追加費用ゼロで始められる施策です。最後に要点を整理します。

論点 結論
渡す義務の根拠 所得税法231条、健康保険法167条3項、厚生年金保険法84条3項
電子化の可否 本人の承諾を得れば可能(所得税法231条2項)
全員分の同意書 不要。期限までに回答がなければみなし承諾として扱える
紙でほしいと言われたら 承諾済みでも紙で交付する義務がある
源泉徴収票 同じ枠組みで電子化できる。摘要欄に「電子交付」と表示する
閲覧できる期間 賃金台帳に合わせて3〜5年分を目安にする
費用 既存の給与計算ソフトに機能があれば追加費用ゼロ
効果が大きい会社 拠点が分かれている・郵送している・再発行が多い会社
最初にやること いまの給与計算ソフトに電子交付機能があるかを15分で確認する

「給与明細だけ」で考えると効果が見えにくいテーマですが、年末調整・勤怠・経費精算まで含めて業務全体で組み立てると、担当者の作業時間とコストの両方が下がります。
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