【2026年版】年末調整の電子化はどこから始める?中小企業の進め方|年調ソフト・マイナポータル連携と、令和9年1月からの法定調書「30枚ルール」
結論から申し上げます。年末調整の電子化は「全部やるか、やらないか」の二択ではありません。国税庁自身が、部分的な対応でも一定の効率化が図れると公式に説明しています。まずは従業員から申告書をデータで受け取るところだけ、で構いません。
そのうえで、令和8年分(2026年12月に行う年末調整)は様子見をしにくい年です。理由は3つあります。ひとつ目は、令和8年12月1日に施行される税制改正が、12月の年末調整に直接効いてくること。
ふたつ目は、令和8年8月以降、源泉徴収票を含むすべての法定調書の様式が変わること。3つ目は、令和9年1月1日以後に提出する法定調書から、e-Taxなどによる提出義務の基準が「100枚以上」から「30枚以上」に下がることです。
この記事では、従業員30〜300名の中小企業を前提に、年末調整の電子化をどこから始めればよいかを整理します。
国税庁が公開しているFAQと公式ページの記載をもとに、「税務署への申請は要るのか」「何を満たせばデータで受け取ってよいのか」「給与ソフトに何を確認すればよいのか」まで、実務の手順に落とし込んで解説します。
年末調整の電子化とは?紙とどこが違うのか
年末調整の電子化とは、従業員が提出する各種申告書と、保険会社などが発行する控除証明書を、紙ではなくデータでやり取りする取り組みのことです。国税庁は、これによって勤務先と従業員の双方の事務負担を軽くすることを目的としていると説明しています。
ポイントは、電子化の対象が「税務署への提出」だけではないことです。むしろ中小企業にとって手間の大半を占めているのは、社内で紙を配って集めて検算する部分です。ここをデータに置き換えるのが、年末調整の電子化の中心になります。
これまでの流れと、電子化後の流れ
国税庁の資料では、電子化の前後で次のように変わると整理されています。
| 手続の内容 | これまで(紙) | 電子化後 |
|---|---|---|
| 年末調整申告書の作成 | 控除証明書の内容を手書きで転記 | データを取り込んで自動入力 |
| 控除額の計算 | 従業員が電卓などで手計算 | ソフトが自動計算 |
| 控除額の検算 | 勤務先で必要 | 不要 |
| 給与システムへの取込 | 控除額などを手入力 | 申告書データをインポート |
| 控除証明書の確認 | ハガキと申告書を突き合わせ | データを使えば確認事務を削減できる |
| 書類の保管 | 紙で保管(保管スペースが必要) | データで保管(紙の保存が不要) |
勤務先側のメリットとして国税庁が挙げているのは、控除額の検算が不要になること、添付書類の確認事務が減ること、記載誤りが減って従業員への問い合わせが減ること、そして書類の保管コストが下がることの4点です。

年調ソフトとは?国税庁が無償で配っているソフト
年調ソフトとは、正式名称を「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」といい、従業員が控除証明書のデータを使って申告書を簡単に作成し、勤務先に提出するデータや書面を作れる、国税庁が無償で提供しているソフトウェアです。パソコン版とスマートフォン版があります。
令和8年分については、令和8年8月7日にプロトタイプ版(開発途中の動作確認用)が公開されており、正式版は令和8年10月に公開予定と案内されています。プロトタイプ版ではマイナポータルからの証明書取得ができないため、全社に配るのは正式版が出てからにしてください。
なお、民間の給与ソフト会社が提供する申告書作成用のソフトを使うこともできます。すでにクラウドの給与ソフトを使っている会社であれば、年調ソフトを別途配らず、そのソフトの従業員用画面で完結させるほうが現実的です。
要注意|ExcelやPDFで集めても、電子化のメリットはほとんど出ない
ここは多くの会社が誤解しているところです。「うちはもうExcelの様式に入力して送ってもらっているから電子化済み」というご相談をよくいただきます。
国税庁のFAQには、Excelシートやプレーンなファイルに必要事項を入力して送信する方法、手書きの申告書をスキャナーで読み込んで送信する方法について、法令上はいずれもデータによる提供に該当すると書かれています。
ただし続けて、これらの方法では控除証明書データを利用した申告書への自動入力ができないほか、勤務先側でも記載内容の確認事務の削減につながらないなどのデメリットがある、と明記されています。
つまり、紙をやめただけでは検算も確認も減りません。楽になるのは「配る・郵送する」部分だけです。本当に効くのは、控除証明書のデータが申告書に自動で入り、控除額が自動計算され、それが給与システムにそのまま取り込まれる状態をつくったときです。
なぜ令和8年分が分かれ目なのか?3つの理由
年末調整の電子化は義務ではありません。紙のまま続けても違法にはなりません。それでも令和8年分を分かれ目と申し上げるのは、この年末調整の前後で、制度側の条件が3つまとめて変わるからです。
理由1|令和9年1月提出分から、法定調書の「30枚ルール」が始まる
法定調書とは、源泉徴収票や支払調書のように、税務署への提出が法律で義務づけられている資料のことです。この法定調書について、国税庁は次のように定めています。
法定調書の種類ごとに、前々年に提出すべきであったその法定調書の枚数が30枚以上であるものについては、e-Tax、国税庁長官の認定を受けたクラウドサービス等、またはCD・DVDなどの光ディスク等による提出が必要になります。
この30枚という基準は令和9年1月1日以後に提出する分から適用され、令和8年12月31日以前に提出する分については従来どおり100枚以上です。
| いつ提出する分か | 判定に使う年 | 義務になる枚数 |
|---|---|---|
| 令和8年12月31日以前 | 前々年(令和6年) | 100枚以上 |
| 令和9年1月1日以後 | 前々年(令和7年) | 30枚以上 |
判定は法定調書の種類ごとに行います。たとえば給与所得の源泉徴収票が35枚、報酬の支払調書が10枚という会社であれば、源泉徴収票だけがe-Tax等による提出の対象になります。
理由2|源泉徴収票の「みなし提出の特例」が始まる
もうひとつ、実務が変わる改正があります。令和9年1月以後に提出する令和8年分の源泉徴収票については、市区町村に給与支払報告書を提出した場合、税務署に提出する必要がなくなります。国税庁はこれを「源泉徴収票のみなし提出の特例」と呼んでいます。
ここで注意していただきたいのは、従業員本人への交付は引き続き必要だという点です。なくなるのは税務署への提出であって、本人に渡す義務ではありません。
給与支払報告書はeLTAX(地方税ポータルシステム)から提出すると、複数の市区町村へ自動で振り分けて送信されます。つまり、eLTAXで給与支払報告書を出す運用にしておけば、税務署への源泉徴収票の提出という作業自体が消えることになります。
電子化を進める動機として、これは非常に大きい変化です。
e-Tax「法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要」 ➡
理由3|令和8年12月1日施行の改正が、12月の年末調整に直撃する
令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正が行われました。国税庁のQ&Aによると、これらは令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます。
特徴的なのは、令和8年11月までの給与の源泉徴収事務には変更が生じないという点です。
毎月の給与計算はそのままで、12月に行う年末調整のところで、改正後の表と改正後の基礎控除額を使って1年分の税額を計算し、改正前の源泉徴収税額表で計算してきた金額との精算を行うことになります。
なお、給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円に引き上げられました。
また「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」も改正されており、この表は令和8年8月末頃に国税庁ホームページに掲載される「令和8年分年末調整のしかた」に載ると案内されています。
ITの観点で申し上げると、ここが今年いちばん重要です。給与ソフトが改正後の表と控除額に対応したアップデートを適用していなければ、12月の年末調整の計算が合いません。
しかも令和9年1月1日以後に支払う給与からは「源泉徴収税額表」も改正後のものに変わるため、12月と1月の2回、ソフトの更新を確認するポイントがあります。
あわせて|令和8年8月以降、法定調書の様式そのものが変わる
同じQ&Aには、令和8年度税制改正に伴う給与所得の源泉徴収票の改正はないとしたうえで、国税システムの更改に伴い、令和8年8月以降、給与所得の源泉徴収票を含むすべての法定調書の様式が変わると書かれています。
自社でExcelの帳票テンプレートを作り込んでいる会社や、古い給与ソフトを使い続けている会社は、ここで様式が合わなくなる可能性があります。
市販の給与ソフトを使っている場合は提供元のアップデートで対応されますが、「更新を当てていない」状態だと旧様式のまま出力されてしまいます。
どの書類が電子化できる?対象書類の一覧
国税庁のFAQでは、データによる提供の対象となる書類が明示されています。まず従業員が提出する申告書は次の7種類です。
| 区分 | 書類名 |
|---|---|
| 1 | 扶養控除等申告書 |
| 2 | 配偶者控除等申告書 |
| 3 | 保険料控除申告書 |
| 4 | 住宅借入金等特別控除申告書 |
| 5 | 基礎控除申告書 |
| 6 | 所得金額調整控除申告書 |
| 7 | 特定親族特別控除申告書 |
これに加えて、控除証明書等(生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料、地震保険料、社会保険料、小規模企業共済等掛金など)もデータでのやり取りが可能です。
全部そろわなくても始められる
よくいただく質問に「保険会社の一部がデータ交付に対応していない場合はどうするのか」があります。答えは、そろわなくても構いません。国税庁のFAQでも、すべての控除証明書がデータで届かなければ申告書をデータで提供できない、ということはないと説明されています。
実務では、データで取れたものはソフトに取り込み、紙で届いたものは手入力して原本を添えて提出する、という混在運用になります。初年度はこれで十分です。全員が全部データ、という状態を初年度から目指すと、まず頓挫します。
税務署への申請は必要?満たすべき「一定の要件」とは
ここは古い記事に誤った情報が残りやすいところなので、はっきり書いておきます。
令和3年4月1日以降、税務署への承認申請は不要になった
以前は、従業員から申告書をデータで受け取るために、事前に税務署へ「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認を受ける必要がありました。
しかし国税庁のFAQには、令和3年4月1日以降に従業員からデータで年末調整申告書を受領する場合は、申請が不要となりましたと明記されています。
つまり、税務署に何かを出す必要はありません。代わりに、次の2つの措置を社内で講じることが条件になります。
要件1|データを受け取る方法を決めておく
国税庁は、従業員からデータの提供を受けるための方法として、次のいずれかを定めておく必要があるとしています。
| 受け取り方 | 内容 | 追加で必要なこと |
|---|---|---|
| メール等で送信 | 勤務先にインターネット経由のメール等で送ってもらう | データに電子署名を付す、またはパスワードを設定する |
| USBメモリ等で提供 | USBメモリ等に保存して勤務先に渡す | データに電子署名を付す、またはパスワードを設定する |
| 社内の共有領域に保存 | 社内LANなどで、勤務先と作成者本人だけがアクセスできる領域に保存する | 特になし |
| 社内LANにログインして送信 | 社内LANにログインしたうえでメール等で送信する | 特になし |
見落とされやすいのは、メールとUSBメモリの2つについては、電子署名を付けるかパスワードを設定する必要があると定められている点です。「Excelを添付してメールで送ってもらう」だけでは、この要件を満たしません。
要件2|本人から出されたことを担保する
もうひとつは、提出されたデータが従業員本人から提出されたことを確認できるようにしておく措置です。次のいずれかを講じます。
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 電子署名を付す | 従業員が申告書情報に電子署名を行い、その電子証明書を申告書情報と併せて勤務先に送信する。マイナンバーカード等の電子署名を利用できる |
| ID・パスワードを使う | 勤務先から通知したID・パスワードを用いて申告書情報を送信してもらう。データ自体にパスワードを付す場合や、社内システムに個別IDでログインして送る場合も含まれる |
これに加えて、従業員が適正にデータ提供を行えるようにする措置、勤務先が提出者を特定できるようにする措置、申告書に記載すべき事項を画面表示・書面出力できるようにする措置も必要とされています。
給与クラウドの「従業員ポータル」を使えば、要件は自然に満たせる
国税庁のFAQには、従業員各自の「社員ページ」を設けていて、勤務先から支給されたID・パスワードでログインして使うものであれば、上記の要件を満たしているといえる、と明記されています。
これは実務上とても重要です。クラウドの給与・労務ソフトには、従業員が自分のIDでログインして年末調整の質問に答えていく画面がほぼ標準で用意されています。この形にすれば、要件の議論をせずに条件をクリアできます。
逆に、メールでファイルをやり取りする運用を選ぶと、パスワードの付け方や配布方法まで自社で設計しなければなりません。
当社がご相談を受けたときも、まずこの点をご説明します。年末調整だけのために新しい仕組みを買うのではなく、いま使っている給与ソフトに従業員ポータルがあるかどうかを最初に確認するほうが、費用も手間もはるかに小さく済みます。
従業員の事前承諾は不要。ただし源泉徴収票の電子交付は別
国税庁のFAQには、年末調整関係書類をデータで提供させるにあたって、従業員から事前に承諾等を受けておく必要はありませんと書かれています。
一方で、同じFAQの参考欄には、源泉徴収票や給与明細をデータで交付する場合は、事前に従業員の承諾を受ける必要があると書かれています。方向が逆になっていることに注意してください。
押印についても整理されています。データで提供を受ける場合、押印に代わる手続として求めるのは、作成した申告書データへの電子署名か、パスワードの設定です。
国税庁「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」 ➡
脱PPAP・メール誤送信対策の比較(c-compe.com) ➡
どこから始める?段階別の進め方
国税庁は、電子化を①従業員が控除証明書をデータで取得して申告書データを作ること、②勤務先がそのデータを使って年税額を計算することの2つに分けたうえで、部分的な対応でも一定の効率化が図れると説明しています。この考え方をそのまま段階に落とすと、次のようになります。
| 段階 | やること | 効果 | 初年度の負担 |
|---|---|---|---|
| A | 紙のまま。配布と回収だけ社内チャットや共有フォルダに置き換える | 配る手間が減る。検算は減らない | ほぼゼロ |
| B | 給与ソフトの従業員ポータルで申告書をデータ提出させる | 検算と入力が不要になる。ここで負担が大きく下がる | 小さい |
| C | Bに加えて、控除証明書もデータで提出させる | 添付書類の確認事務が減る | 中くらい |
| D | Cに加えて、マイナポータル連携で証明書を自動取得させる | 従業員の入力がほぼ消える | 大きい(従業員側の準備が要る) |
当社が中小企業にご提案するのは、初年度はBまで、翌年以降にCとDを足していく進め方です。理由は単純で、CとDは会社側ではなく従業員側の準備に依存するからです。マイナンバーカードの取得状況やスマートフォンの機種によって、できる人とできない人が必ず出ます。
Bまでであれば、会社側の設定と説明だけで完結します。しかもBの時点で、給与担当者の作業時間はもっとも大きく減ります。検算と手入力が消えるからです。
正直なところ、電子化にはデメリットもある
メリットばかりを並べても判断材料になりませんので、デメリットも書いておきます。まず、初年度は会社側の負担が確実に増えます。設定、周知、説明、問い合わせ対応が上乗せされるうえ、紙で出してくる人が必ず残るため、紙とデータの両方を扱う並行運用になります。
従業員側にも負担があります。控除証明書をデータで受け取るには、保険会社のサイトで交付方法の設定を変える必要があり、マイナポータル連携まで進むならマイナンバーカードとパスワードが要ります。
パソコンやスマートフォンの操作に不慣れな方にとっては、紙に書いたほうが早いというのが率直な感想になります。
そのうえで、それでも電子化をおすすめするのは、負担が増えるのが初年度だけだからです。マイナポータル連携の登録手続は翌年以降は不要になりますし、会社側の設定も一度作れば毎年使えます。
逆に言えば、初年度に何も準備せず本番を迎えると、その年だけが極端に大変になります。
会社側の準備は3つだけ
国税庁は勤務先の準備として、電子化の方針決定と従業員への周知、そして給与システムの改修等を挙げています。中小企業の実務に置き換えると、やることは次の3つです。

準備1|給与ソフトの提供元に、2つだけ質問する
最初にやるべきは、いま使っている給与ソフトの提供元への確認です。国税庁は「給与システム等については、既に勤務先には様々な機能を持ったシステムが導入されているものと承知しておりますので、国税庁から提供する予定はありません」と明言しています。
つまり、従業員側の年調ソフトは無償で配られますが、会社側のシステムは自社で用意する必要があります。
国税庁のFAQも、申告書データを利用して年税額の計算を行うためには勤務先の給与システム等が取込みに対応している必要があるとしたうえで、詳しくは利用中の給与システムの開発業者に問い合わせるよう案内しています。
ここが対応していないと、せっかくデータで集めても結局は手入力になります。
準備2|従業員への周知は、年末調整の約2か月前まで
国税庁のFAQには、従業員がマイナンバーカードを取得したりスマートフォンに登録したりする期間、民間送達サービスの開設に要する期間を考慮すると、電子化の初年度においては年末調整の時期のおおむね2か月前には周知したほうがよいと考えられる、と書かれています。
12月に年末調整を行うのであれば、10月頭が目安になります。9月中に周知文を用意しておくのが現実的なスケジュールです。
実務で失敗するパターンは、案内を1通メールで流して終わりにすることです。当社の経験では、提出率が上がるのは、部署ごとに15分だけ時間をとって、その場で全員に入力してもらう進め方です。
年末調整は年1回しかないため、各自に任せると操作を思い出すところから始まってしまいます。
準備3|受け取り方と締切を決めて、社内ルールにする
最後に、どの方法でデータを受け取るか(前章の要件1)を決め、締切と提出先を含めて1枚のルールにします。ここを決めずに走り出すと、メールで送ってくる人、共有フォルダに置く人、紙で持ってくる人が混在し、集計側が破綻します。
なお、紙とデータが混在すること自体は問題ありません。問題になるのは、どちらで出したかを会社側が把握できていない状態です。提出状況を1つの表で管理できるようにしておいてください。
マイナポータル連携はどこまで使える?
マイナポータル連携とは、従業員が年末調整申告書のデータを作っている途中で、保険料控除などに使う控除証明書のデータを、マイナポータルから自動で取得する機能のことです。複数の控除証明書を一度の処理でまとめて取得できるのが最大の利点です。

自動で取れる控除証明書と、その条件
国税庁が示している対象は次のとおりです。ただし、契約している保険会社や金融機関がマイナポータル連携に対応していることが前提になります。
| 控除証明書等 | 使う申告書 | 注意点 |
|---|---|---|
| 生命保険料控除証明書 | 保険料控除申告書 | 発行主体がマイナポータル連携に対応していることが必要 |
| 地震保険料控除証明書 | 保険料控除申告書 | 同上 |
| 社会保険料控除証明書(国民年金保険料) | 保険料控除申告書 | 発行年の10月中旬までに、マイナポータルからねんきんネットを利用しておく必要がある |
| 社会保険料控除証明書(国民年金基金掛金) | 保険料控除申告書 | 取得できる時期は発行主体によって異なる |
| 小規模企業共済等掛金控除証明書 | 保険料控除申告書 | 小規模企業共済掛金とiDeCoに限られる |
| 年末残高等証明書 | 住宅借入金等特別控除申告書 | 金融機関が対応していることが必要 |
| 住宅借入金等控除証明書 | 住宅借入金等特別控除申告書 | データでの交付を希望した人に限る。例年10月下旬頃から取得できる |
注意|国民年金保険料は「10月中旬まで」に手を打つ必要がある
この表のなかで、期限が切られているのは国民年金保険料の控除証明書です。データで受け取るには、発行年の10月中旬までにマイナポータルからねんきんネットを利用しておく必要があると案内されています。
間に合わなかった場合は、ねんきんネットで再交付の申請を行うことになります。
国民年金の保険料を自分で納めている従業員(中途入社の方や、配偶者分を負担している方など)がいる会社では、この点だけ先にアナウンスしておくと親切です。9月にこの記事を読んでいる方にとっては、ちょうど間に合うタイミングです。
事前準備は4ステップ。ただし翌年以降は不要
マイナポータル連携を使うために従業員側で必要な準備は、次の4つです。国税庁は、これらの登録手続は翌年以降は不要になると案内しています。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | マイナンバーカードの取得と、読み取り機器(ICカードリーダライタまたは対応スマートフォン)の準備 |
| 2 | マイナポータルの開設(利用者登録) |
| 3 | マイナポータルと民間送達サービスの連携(インターネット上の自分専用ポストを作る) |
| 4 | 契約している保険会社等と民間送達サービスの連携設定 |
必要なパスワードは2種類あります。利用者証明用電子証明書のパスワード(数字4桁)と、署名用電子証明書のパスワード(英数字6文字〜16文字)です。マイナポータルには「年末調整の事前準備」ページが用意されており、案内に沿って進めれば準備を完了できます。
「マイナンバーが会社に漏れるのでは」という不安への答え
従業員説明会で必ず出る質問です。国税庁のFAQには、マイナポータル連携にあたってはマイナンバーカードの情報を利用して控除証明書データを取得するが、マイナンバーそのものを利用するわけではないので、マイナンバー流出のおそれはありませんと明記されています。
この一文を周知文にそのまま載せておくと、説明が一往復で済みます。あわせて、マイナポータル連携はあくまで任意であること、使わなくても年末調整は問題なくできることも書き添えてください。
家族の控除証明書も取得できる
生計を一にする配偶者などが契約者になっている生命保険についても、法律上の要件を満たしていれば控除の対象にできます。この場合、配偶者が自身のマイナポータルで本人を「代理人」として登録しておけば、マイナポータル連携で配偶者分の控除証明書データを取得できます。
代理人の登録には、申告する方とご家族の両方のマイナンバーカードが必要です。
現実解|初年度は「使える人だけ」で十分
正直に申し上げると、初年度からマイナポータル連携を全社に広げるのは現実的ではありません。マイナンバーカードのパスワードを忘れている、対応スマートフォンではない、そもそも保険会社が対応していない、といった事情が必ず出てきます。
会社として最初にやるべきは、マイナポータル連携の推進ではなく、申告書をデータで受け取れる状態をつくることです。マイナポータル連携は、それができたあとで、使いたい人から順に広げていけば十分に間に合います。
団体扱い保険はどうする?会社側で証明書データを作れる
従業員の保険料を給与から天引きしている、いわゆる団体扱い保険は、通常は書面の保険料控除証明書が発行されません。そのため、これまでは支払保険料の額を申告書に記入して勤務先の確認を受ける方法で控除を適用してきた会社が多いはずです。
国税庁のFAQには、団体扱い保険についても、次の手順を経ることで従業員が年調ソフトに取り込める形にできると書かれています。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | 契約している保険会社に、団体扱い保険の支払情報をデータで発行してもらうよう依頼する |
| 2 | 年調ソフトの「管理者メニュー」にある「団体扱保険ファイルの変換」でそのデータを取り込み、変換用データを作成する |
| 3 | e-Taxホームページから「電子的控除証明書等作成用ソフト」を入手し、2のデータを取り込んで、給与担当者の電子署名を付与して控除証明書データを作成する |
| 4 | 作成した控除証明書データを各従業員に配付する |
ステップ3の電子署名には、給与担当者のマイナンバーカードなどを利用できます。また、保険会社から届くデータには契約者が氏名コードで入っていることがあるため、氏名コードと氏名の紐づけデータを年調ソフトに取り込んでおくと、変換を自動化できます。
手順としては少し重いのですが、団体扱い保険の加入者が多い会社では、この一手間で従業員全員の入力が消えます。逆に、加入者が数名であれば無理に電子化せず、従来どおり会社側で金額を確認する運用を続けるほうが早いこともあります。
中小企業がつまずく落とし穴
実際のご相談で多いつまずきを、原因と対策の形でまとめます。
| よくあるつまずき | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 給与ソフトがデータ取込に非対応 | データで集めたのに、結局は手入力で転記することになる | 着手前にベンダーへ確認する。対応していなければ段階Aにとどめる |
| プロトタイプ版の年調ソフトを配ってしまう | マイナポータル連携が使えず、仕様変更で作り直しになる | 正式版(令和8年10月公開予定)を待ってから配る |
| メールにファイルを添付させるだけ | 電子署名もパスワードもなく、要件を満たさない | 従業員ポータル方式にするか、パスワード設定を必須にする |
| ExcelやPDFで集めて満足する | 検算も確認事務も減らず、負担がほとんど変わらない | 控除証明書データが自動で入る形を目指す |
| 周知が遅れる | マイナンバーカードやマイナポータルの準備が間に合わない | 年末調整の約2か月前までに周知する |
| 紙とデータの提出状況を管理していない | 誰が未提出かわからず、締切直前に追いかける羽目になる | 提出方法を問わず1つの表で提出状況を管理する |
| 従業員のマイナンバーの扱いが曖昧 | 個人情報の管理責任が宙に浮く | 保管場所とアクセスできる人を決め、退職時の削除まで手順化する |
| 保存のルールを決めていない | データがどこにあるかわからなくなる | 保存場所と保存年数を決めて、担当者以外もたどれるようにする |
最後の2つは、電子化そのものより手前の話です。年末調整のデータは、従業員とその家族の氏名、住所、生年月日、マイナンバー、保険の契約情報が一式そろった、社内でもっとも機微な個人情報のかたまりです。担当者の個人フォルダに置いたままにしないでください。
改正個人情報保護法とセキュリティ対策(c-compe.com) ➡
保存はどうする?年末調整関係書類は7年間
国税庁のFAQには、データにより提供を受けた年末調整関係書類は、書面によるものと同様、税務署長から提出を求められた場合を除いて、その提出期限の属する年の翌年1月10日から7年間保存する必要があると書かれています。
紙で受け取っていた頃は、封筒にまとめてキャビネットに入れておけば済んでいました。データになると、逆に「どこに保存したか」を決めておかないと行方不明になります。給与ソフトの中に残るのか、共有フォルダに書き出すのか、どちらにしても場所と権限を決めておいてください。
なお、年調ソフトから印刷した申告書は国税庁が公表している様式と見た目が異なりますが、法律で定められた記載事項は網羅されているため、これを保管していれば問題は生じないとFAQに明記されています。
電子帳簿保存法との関係や、紙で受け取った控除証明書をスキャンして保存してよいかといった細かい点は、税務上の判断が絡みます。顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
費用はどれくらいかかる?補助金は使える?
年末調整の電子化にかかる費用を分解すると、次のようになります。金額は一般的な目安であり、製品や契約形態によって変わります。実際の金額は各社の公式サイトまたは見積りでご確認ください。
| 費目 | 目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 年調ソフト(国税庁) | 0円 | 無償で提供されている。従業員側で使うソフト |
| 給与・労務クラウドの月額 | 1人あたり月300〜600円程度+基本料 | 勤怠や給与計算とセットの製品が多い |
| 年末調整オプション | 年1回の追加課金となる製品もある | 月額に含まれるか、別課金かを必ず確認する |
| 初期設定・移行支援 | 10万〜50万円程度 | 従業員データの移行と、申告書のフロー設定 |
| 社内工数 | 見落とされがちだが最大の費用 | 周知、説明、問い合わせ対応、初年度の並行運用 |
30名規模の会社であれば、既存の給与ソフトが対応しているなら追加費用ゼロで段階Bまで進められることも珍しくありません。まずは「もう持っているのに使っていない機能がないか」を確認するのが、いちばん費用対効果の高い一手です。
デジタル化・AI導入補助金は使えるか
給与計算や労務管理のクラウドを新しく導入する場合、デジタル化・AI導入補助金の対象になりうるソフトウェアがあります。ただし対象は補助金の事務局に登録されたITツールに限られるため、検討している製品が登録されているかを必ず確認してください。
あわせて注意していただきたいのが、交付決定前に発注や契約をしてしまうと補助の対象外になるという点です。年末調整に間に合わせようとして先に契約し、あとから補助金を申請しようとして対象外になる、というご相談を毎年いただきます。
補助金を使う前提であれば、公募スケジュールから逆算して動く必要があります。
なお、いま契約している給与ソフトの設定を変更するだけの場合や、既存環境の運用変更だけの場合は、対象にならない可能性が高いです。要件は年度ごとに変わりますので、最新の公募要領をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
| ケース | 補助金の使いやすさ | コメント |
|---|---|---|
| 給与・労務クラウドを新規導入する | 使いやすい | 登録ITツールであることが前提 |
| 勤怠管理とセットで刷新する | 使いやすい | 業務プロセス全体の改善として申請しやすい |
| 既存ソフトの設定変更だけ | 使いにくい | 新規のツール導入にあたらない可能性が高い |
| 年調ソフト(国税庁)を使う | 対象外 | そもそも無償のため費用が発生しない |
年末調整に使うソフトを選ぶときの4つの軸
新しく導入する場合、比較の軸は次の4つに絞ってください。機能一覧を端から比べると、どれも同じに見えて決められなくなります。
| 軸 | 見るポイント | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 給与計算との連携 | 同じ製品または同じシリーズで給与計算まで完結するか | 年末調整だけ別製品にすると、結局データの受け渡しで手作業が発生する |
| 従業員ポータルの有無 | 従業員が自分のIDでログインして入力できる画面があるか | 国税庁の要件をそのまま満たせる。メール運用の設計が不要になる |
| マイナポータル連携への対応 | 控除証明書の自動取得に対応しているか | 翌年以降に段階Dへ進むときの伸びしろになる |
| サポート体制 | 年末調整の時期に電話やチャットで聞けるか、対応時間はどうか | 年1回しか使わない機能のため、詰まったときに聞ける先があるかで所要時間が変わる |
中小企業では、給与担当者が1名または経理と兼任というケースがほとんどです。その場合、機能の多さよりもサポートに聞けるかどうかのほうが、実際の作業時間に効いてきます。
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令和8年分の年末調整で、IT側が気をつけること
最後に、制度の中身ではなくシステム運用の観点で、今年押さえておくべき点を整理します。税額計算そのものの解釈は税理士の領域ですので、ここではITとしての確認事項に絞ります。
| 確認事項 | いつ | 内容 |
|---|---|---|
| 給与ソフトの改正対応 | 11月中 | 令和8年12月1日施行の改正に対応した更新が適用されているか |
| 源泉徴収税額表の切り替え | 12月〜1月 | 令和9年1月1日以後に支払う給与から改正後の税額表を使う |
| 法定調書の様式変更 | 12月まで | 令和8年8月以降、国税システムの更改で様式が変わっている |
| 30枚ルールの判定 | 9月〜10月 | 令和7年に提出した法定調書の枚数を種類ごとに数える |
| eLTAXの利用準備 | 12月まで | 給与支払報告書をeLTAXで提出する準備(みなし提出の特例に関係) |
| 年調ソフトの配布 | 10月以降 | 正式版の公開を待つ。プロトタイプ版は配らない |
なお、令和8年度税制改正でひとり親控除の控除額が引き上げられましたが、国税庁のQ&Aによると、この改正は令和9年分以後の所得税について適用されるため、令和8年分の年末調整には影響しないとされています。
今年の改正はすべて今年に効く、と思い込まないようご注意ください。
また、「令和8年分年末調整のしかた」と「令和9年分 源泉徴収税額表」は、令和8年8月末頃に国税庁ホームページに掲載される予定と案内されています。給与担当者の方は、この2つを手元に置いてから12月の作業に入ってください。
税制改正の適用関係や個別の控除の判定については、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。本記事はITの導入・運用の観点から整理したものであり、税務判断を行うものではありません。
今日からできる3ステップ
最後に、9月の時点で着手できることを3つに絞ります。所要時間の目安つきです。
| ステップ | やること | 所要時間 | 費用 |
|---|---|---|---|
| STEP1 | 給与ソフトの提供元に2つの質問をメールで送る | 15分 | 0円 |
| STEP2 | 令和7年に税務署へ提出した法定調書の枚数を種類ごとに数える | 30分 | 0円 |
| STEP3 | 従業員への周知文を作り、10月頭に配れるようにしておく | 1時間 | 0円 |
この3つは、電子化に踏み切るかどうかを決める前でも実行できます。特にSTEP2は、令和9年1月から紙で提出できなくなるかどうかが判明するため、優先度が高い作業です。
そして、もし段階Bに進むと決めたなら、9月から10月にかけて設定と説明を済ませ、11月に試験運用、12月に本番、という流れが無理のないスケジュールです。年末調整の直前にツールを入れ替えるのは、いちばん事故が起きやすいやり方です。
よくある質問
Q. 年末調整の電子化は義務ですか?
A. 社内の申告書のやり取りを電子化することは義務ではありません。紙のまま続けても問題ありません。
ただし税務署への提出については別で、法定調書の種類ごとに前々年の提出枚数が30枚以上(令和8年12月31日以前に提出する分は100枚以上)であれば、e-Tax、認定クラウド等または光ディスク等による提出が必要です。
この30枚基準は令和9年1月1日以後に提出する分から適用されます。
Q. 電子化するために、税務署へ申請書を出す必要はありますか?
A. 必要ありません。以前は事前に承認申請書を提出して承認を受ける必要がありましたが、国税庁のFAQによると、令和3年4月1日以降に従業員からデータで年末調整申告書を受領する場合は申請が不要となりました。
代わりに、データの受け取り方法を定めておくことと、本人から提出されたことを確認できる措置を講じることが必要です。
Q. 従業員10名の会社ですが、電子化するメリットはありますか?
A. あります。人数が少ない会社ほど、給与担当者が他の業務と兼任していることが多く、年末調整の1〜2週間だけ他の仕事が止まるという状況になりがちです。検算と手入力が消えるだけでも効果は出ます。ただし新しいツールを買う必要はありません。
まずは今の給与ソフトに従業員ポータルがあるかどうかを確認してください。
Q. 従業員が全員マイナンバーカードを持っていなくても電子化できますか?
A. できます。マイナンバーカードが必要になるのは、マイナポータル連携で控除証明書を自動取得する場合と、従業員が自分の電子署名を付けてデータを提出する場合です。
会社が発行したID・パスワードでログインする従業員ポータル方式であれば、マイナンバーカードがなくても要件を満たせます。
まとめ|まずは申告書をデータで受け取るところから
年末調整の電子化について、要点を整理します。
| 論点 | 結論 |
|---|---|
| 電子化は義務か | 社内のやり取りは義務ではない。ただし法定調書の提出は枚数によって義務になる |
| 今年が分かれ目な理由 | 令和8年12月1日施行の改正、法定調書の様式変更、令和9年1月からの30枚ルール |
| 税務署への申請 | 令和3年4月1日以降は不要。代わりに社内で2つの措置を講じる |
| いちばん効く一手 | 給与ソフトの従業員ポータルで申告書をデータ提出させること |
| ExcelやPDFでの回収 | 法令上はデータ提供に当たるが、検算も確認事務も減らない |
| マイナポータル連携 | 初年度は使える人だけで十分。会社側の必須要件ではない |
| 周知の時期 | 初年度は年末調整のおおむね2か月前まで |
| 保存 | 提出期限の属する年の翌年1月10日から7年間 |
いちばんの近道は、新しいツールを探すことではなく、いま契約している給与ソフトに何ができるかを確認することです。従業員ポータルが標準で付いていて、使われていないだけ、というケースは本当によくあります。
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株式会社アーデント 代表取締役。2006年にオフィス専門不動産会社アーデントを創業。その後、オフィス賃貸仲介、ワークプレイス作りに10年以上携わり、合計500社以上のオフィス移転をサポート。2018年よりクラウドPBXを中心にネットワーク、通信分野を専門に400社以上の電話、ネット環境づくりをサポート。2022年より100以上のクラウドサービスの販売を開始。
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